美殿町商店街の通り沿いでひときわ存在感を放つ、ガラス張りの本屋さん。「徒然舎」と書かれた扉を開くと、どこか郷愁をさそう古書の香りに心が和みます。
ここは、店主の確かな目で丁寧に選び抜かれた本ばかりが並ぶ、“まちの古本屋さん”。小さな子どもからお年寄りまで幅広い年齢層のお客さんが訪れ、本を手に取り、思い思いの時間を過ごしています。
そんな様子をやさしい眼差しで眺めているのは、店主の深谷由布さん。深谷さんは2009年に勤めていた岐阜の出版社を辞めて、古本のインターネット通販を始めました。起業後すぐ、名古屋で開かれた「一箱古本市」に参加したことをきっかけに、近隣県はもとより長野や神戸、東京などのイベントに出向き、たくさんの人と会い、つながりを広げてきました。「多くの人と出会って、またいつか会う約束をしても、実店舗がないと来てもらう場所がないんです。それが少し寂しく感じてしまって」と、2011年の春に、美殿町の隣に位置する岐阜市殿町に初代店舗をかまえました。
「実はその頃から、美殿町沿いの空き店舗を密かに狙ってはいたんです(笑)。商店街を歩きながら探ってみたんですが、知り合いもいないし、募集看板も見当たらないしで、美殿町は諦めることにしたんです」と深谷さん。とは言うものの、店舗をかまえてからは岐阜での人脈がさらに広がり、柳ケ瀬で開かれたイベント「ハロー!やながせ」などにも参加。実店舗やイベントでどんどん知名度を上げた徒然舎は、遠方からもはるばる客が訪れる人気店へと育っていったのです。
徒然舎には、学術書や専門書だけでなく、絵本も文学も、地方のリトルプレスなども並んでいます。ジャンルは実にさまざまで、中には岐阜の郷土史や、哲学書なども見つけることができます。
本は、お客さんから買い取ったもののほか、古本の市場で仕入れてきたものもあるそう。「ここの本棚に置く基準は、私自身が面白いな、読んでみたいな、と思うこと…かな」と笑って話してくださいました。誰かの手の中で時を刻み、大切に読み継がれながらここへたどり着いた本たちは、大型書店に並んでいる新刊とは違う温かさに満ちていました。
「徒然舎」が殿町を離れて美殿町へ引っ越してきたのは、2014年秋。「miyukidesignの大前さんに、少し広い物件に引っ越したいんですよと相談したところ、“美殿町にちょうどいい物件が空いたよ”と教えてもらったのがきっかけ。この道は毎日通勤で通っていたので物件のことは知っていましたし、ほぼ即決でした」。前店舗は、玄関で靴を脱いで上がる古民家スタイル。それとは全く異なる佇まいの新店舗は、T字路の角に位置する、全面ガラス張りのワンフロアでした。壁や天井、柱などを白く塗り、床にはじゅうたんを敷いて改装し、10月から美殿町で新“徒然舎”がオープンしたのです。
深谷さんが目指していたのは、“気軽に立ち寄れるまちの古本屋”。ふらりと立ち寄り、本をパラパラとめくって選んで、お気に入りを見つけて連れて帰るーー。特に買いたいものがなくても、探している本がなくても、何気なく扉を開いて、本を手に取り、心穏やかな時間を過ごしてほしい。そんな場所を岐阜の街に作りたかったのだと言います。その願いの通り、ここを訪れるお客さんは一冊の本と一緒に、小さな幸せを見つけて持ち帰っているのかもしれません。
「美殿町は、お客さんと店の距離がちょうどいい、過ごしやすい街だと感じています。お店同士の交流もあって、新しいものを受け入れてくれる余裕と優しさがある、そんな商店街。ここの一員になれたことが嬉しいです」。今日もこの街で、また新たな“本の縁”と“人の縁”が、ひとつ、またひとつと結ばれていくのでしょう。
古書と古本 徒然舎
岐阜市美殿町40 矢沢ビル1F
定休日:火・水曜
営業時間:12:00〜20:00
TEL:058-214-7243
URL:http://tsurezuresha.net
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